免疫研究のパラダイム―自然免疫から獲得免疫へ(2/15号)
平成 20年 2月 15日号
今回の特集は
免疫研究のパラダイム―自然免疫から獲得免疫へ
石井威望のコメント
今回紹介されるTLR(免疫に関連する受容体)が自然免疫系で極めて重要な役割をしていることが大阪大学審良教授グループによって明らかにされ、世界中から高い評価を受けている。獲得免疫が活性化される前の自然免疫の役割(侵入病原体への最初の防衛機能)が明らかになったばかりでなく、この例を含めて最近の我が国の免疫研究の基盤が充実してきた証拠でもある。
既に医学関連では再生医療に結びつくiPS細胞の研究など極めて高い水準が達成されており、若者の理科離れが憂慮されている一方、このような明るいニュースにも事欠かないことは注目される。今回の執筆者は、科学技術振興機構研究開発戦略センターシニアフェローの野田正彦氏である。
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ポイント
1.特異性の高い「獲得免疫」、非特異的な「自然免疫」
免疫は生体に侵入するウイルスや微生物などから身を守るために生物に備わる生体防御機構で、ほとんどの生物に存在するが、病原菌に感染してその病が癒える、あるいはワクチンにより擬似的に感染した状態をつくると、その病原菌に対する抵抗力が得られる「獲得免疫」、そして食細胞や抗生物質など、原始的かつ非特異的で、病原菌に対する阻止能力が一回きりの「自然免疫」、この二種類に分かれる。
2.ヒトでは自然免疫と獲得免疫が多重に組み合わされている
自然免疫は下等な生物の免疫、獲得免疫は高等な生物の免疫として別個に研究されてきたが、1997年、ショウジョウバエのToll受容体と構造がよく似た受容体(TLR)がヒトの免疫細胞にも発見され、その後、免疫研究のパラダイム転換をなすべく大阪大学の審良静男教授らによってTLRの全容解明が取り組まれてきた。この研究全体で示されたのは、高等生物では自然免疫、獲得免疫が多重に組み合わされた免疫機構を発達させてきた、ということである。
3.感染だけにとどまらずアレルギーやがんもターゲットに
審良プロジェクトの具体的成果は、TLRについて、細菌やウイルスを検出するセンサーとしての機能、(ノックアウトマウス実験による)反応経路、さらに医療応用面でワクチンの効果を高めるアジュバントの作用など、を解明したことであり、また今後の重要なターゲットはアレルギーやがんの原因とかかわる炎症の制御である。