IT創薬が鍵となるゲノム創薬戦略(1/15号)
平成 20年 1月 15日号
今回の特集は
IT創薬が鍵となるゲノム創薬戦略
石井威望のコメント
今回の執筆者は、京都大学大学院薬学研究科の辻本豪三教授であるが、辻本教授は、つとにIT創薬の有望さを看破し、着々と実績を重ねて、ついに今夏、京都大学大学院“医薬創成情報科学専攻”設立を実現した強力な研究指導者である。
21世紀の開幕と同時にヒトゲノム計画の達成が注目を浴びたが、その後のポストゲノム時代におけるゲノム科学の進歩をフルに活用して生れたのがゲノム創薬である。世紀開幕以後数年間のIT分野の蓄積が、このゲノム創薬へと融合し、シナジーが始まり、まさに革命的変化が起ろうとしている。恐らく、最近話題を集めている人工多能性幹細胞(iPS細胞)に並ぶ京都大学発の世界的貢献の一つであろう。
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ポイント
1.迅速かつ高効率なシステムとしてIT創薬へ
ゲノム科学に基づき網羅的に疾患関連遺伝子、治療関連遺伝子を探索し、科学的根拠に基づく創薬を行うプロセスが“ゲノム創薬”であり、そのようにして創られた薬物を各患者個々の遺伝的背景を元に治療薬選択、投与設計を行う方法論が“薬理ゲノミクス”である。そしてゲノム創薬の研究開発戦略フローを迅速かつ高効率なシステムとすることが求められており、その最右翼の方法論がバイオインフォマティクス(生物科学と情報科学の融合)を活用するIT創薬である。
2.SNPバーコード、DNAチップと「テーラーメイド医療」
遺伝子の違いとしての遺伝子多型(SNP)は各個人のゲノム上に書かれた個人認証のバーコードであり、一方、いろいろな病気や薬の投与のような生体内の環境変化に対応して細胞内で働く遺伝子の量的変動を分析するツールがDNAチップである。このSNPバーコードやDNAチップの、「テーラーメイド医療」への応用が期待されている。
3.人材不足を克服してIT創薬の国際競争における優位性獲得を
2010年に日本国内では創薬とITの両方のスキルを有する人材が数万人単位必要とされるが、現在の教育体制ではその需要を満たすことは難しく、産学官連携体制が整備されている米国はもちろん、天然物環境に恵まれるインドや中国などのIT新興国の後塵を拝する可能性もある。こうした現況を克服する方策として京都大学大学院“医薬創成情報科学専攻”設立が実現し、創薬立国への方途が模索されている。