バイオインフォマティクス(10/15号)
平成19年 10月 15日号
今回の特集は
バイオインフォマティクス
石井威望のコメント
バイオインフォマティクス(生命情報科学)は、すでに1970年代、遺伝子のDNA配列をコンピュータ処理によって扱うことから始まり、さらに蛋白質立体構造の研究分野へと拡大されていったが、2000年前後から本格的になった。しかし、ゲノム情報の重要性が増していることが認識される一方で、人材の不足など深刻な問題も明らかになってきた。最近、この分野から大企業が撤退し、全体としての縮小傾向も現われている。
21世紀に不可欠なバイオ分野の中核技術として、今後研究者の育成や他分野との協力について戦略的な展開が求められている。今回の執筆者は、東京工業大学大学院情報理工学研究科教授秋山泰氏である。
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ポイント
1.生物学データをコンピュータで解析し、規則性の発見や類推
バイオインフォマティクスは、膨大な生物学データをコンピュータ上で解析することにより、規則性の発見や類推を行うための技術分野であり、生命科学と情報科学の融合領域として、近年、急速な発展を遂げている。守備範囲も、臨床医学、農学、環境などへと徐々に広がりつつあり、その高速性や網羅性により、生命科学における戦略的なナビゲーションの機能を果たしていくものと期待される。
2.遺伝子間のネットワーク解明には情報論的な取り扱いが必須
ゲノムの俯瞰的情報が得られる時代になると、既存の手法では機能が推定できない遺伝子配列が多数現れてしまったため、プロファイル比較、モチーフ探索などの手法を採用、発展させてきた。またタンパク質の全容理解に対応して、遺伝子間のネットワーク解明も重要になったが、それには情報論的な取り扱いが必須で、異種生物間の比較、コンピュータによる経路の自動発見やシミュレーションが試みられている。
3.バイオインフォマティクスそのもののためのコーディネート役を
バイオインフマティクスが抱える問題点の一つは、生命・情報の分野双方が細分化されているために対話・協力が成り立ち難く、また相互に都合のよいものしか利用しないこと。二つめは、高度な技術と長い訓練時間が必要とされるのに対して市場規模が約50億円と小さく、企業が撤退傾向にあることである。人材、とりわけバイオインフォマティクスそのものに身を投じるコーディネート役の育成が求められる。