エピジェネティクス―ポストゲノム時代の挑戦 (6/1号)
平成19年 6月 1日号
今回の特集は
エピジェネティクス―ポストゲノム時代の挑戦
石井威望のコメント
最近エピジェネティックが一種の“流行語”になりつつある。このポストゲノム関連技術は、ヒトゲノム解析の結果を遺伝子機能やたんぱく質の解析などに利用して創薬や病気の診断を高度化する技術である。
2004年のこの分野への出願総数に占める国別割合では、日本が22%でアメリカの43%に続いており、ヨーロッパの20%を凌いでいる(5月9日特許庁発表)。出願企業別にみてもトップ10の中に日本の企業が三つ入っている。欧米の出願件数が、この分野では2000年をピークに減少傾向にある中で、日本は出願件数増加を続けている。今回の執筆者は、理化学研究所発生・科学総合研究センター中山潤一チームリーダーである。
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ポイント
1. DNA配列だけでは説明できない「遺伝学」
エピジェネティクス(epigenetics)とは、遺伝学(genetics)にepi-(後の、後成の)という接頭語が着いてできた言葉で、「DNA配列の変化では説明できない、有糸分裂(mitosis)、あるいは減数分裂(meiosis)を通じて伝えられる遺伝子機能の変化とその研究」をその定義とし、1980年代後半以降、分子生物学者の間で注目されてきた。
2. 生命現象への関与の解明から様々な学問分野へ
エピジェネティクスが関与する生命現象としてはまず、遺伝子が特別な染色体領域に置かれた場合にその発現が抑制されるものがあり、また哺乳類にみられるように染色体全体におよぶものもある。がん化については、DNA配列の変化を伴わないエピジェネティックな変化の蓄積が、細胞の形質変化に大きな役割を果たすことが明らかになっている。一卵性双生児の成長過程というより大きな個体レベルの変化への関与も明らかになりつつあり、様々な学問分野につながる可能性が示されている。
3. 三つの分子メカニズムの連関解明には産官学の協調を
分子メカニズムとしては、@(特にシトシン塩基における)DNA自身のメチル化修飾、A基本単位のヌクレオソームによる阻害を防ぐためのクロマチンの構造変換、B二本鎖RNAの導入によってそのRNAと相補的なmRNAの分解、あるいは翻訳抑制が起こる現象=RNA干渉があるが、この三つの連関には非常に注目が集まっており、したがって医療応用も含めた産官学の協調が期待されている。