セレーネ衛星による月観測(3/15号)
平成19年 3月15日号
今回の特集は
セレーネ衛星による月観測
石井威望のコメント
今回の執筆者は、宇宙科学の専門家である宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部の加藤學教授である。セレーネ衛星は、無人衛星としては3トンという異例の重量級月探査衛星である。まず第1の特徴は、世界最高性能の観測機器を多種類備えていること、第2は、月に着陸して地質的な調査をすること、とりわけ極の永久影における水氷の問題や酸素供給物質としてのイルメナイトなど岩石資源の利用可能性の追求も含まれている。
セレーネ衛星は、我が国が最も得意とするロボット技術の宇宙版ともいえる。もちろん、アポロ計画以降人類は、月の起源と進化の謎の解明を進めてきたが、セレーネ衛星が更に重要な一歩を加える筈である。
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ポイント
1. 無人としては重量級、ハイビジョンカメラを搭載して打ち上げへ
日本では二度目の月探査であり、3トンという無人衛星としては異例の重量を有する「セレーネ衛星」の打ち上げが2007年夏に迫った。月軌道には、地球周りの静止軌道からフェージングによって投入され、そして約2ヶ月の観測機器動作チェック後、10ヶ月のノミナル観測期間に入り、高度維持と月中心指向の姿勢制御を行う過程を経る。開発分担は、バス機器が宇宙開発事業団、そして14種類にも及ぶ観測機器が文部省宇宙科学研究所であり、また広報活動の一環としてハイビジョンカメラを搭載して高精細な映像を一般家庭のお茶の間に届けることも目指す。
2.世界最高性能の観測機器の統合で、月の起源と進化の謎へ
セレーネ衛星に搭載される観測機器は、宇宙での使用がこれまで無かった世界最高のエネルギー分解能、空間分解能、高精度を誇り、そしてそれらによるデータを統合することで、効率的かつ巨大な科学成果が期待できる。採集地が偏っていたアポロ計画と違い、全球に亘って元素・鉱物・岩石の分布を調べ、マグマオーシャン説などを再検証することもあわせ、月の起源と進化の謎の解明に到達することも可能である。
3.着陸後は水氷の調査や岩石の資源利用検討も
セレーネ計画以降の月探査としてまずすべきことは着陸しての地質調査であろう。先行する米国では、彗星飛来の歴史を実証できる極の永久影における水氷の存在の可能性が指摘され、また酸素供給物質としてのイルメナイトを筆頭に岩石の資源利用も検討されている。