RNA研究分野の新展開 (8/1号)
平成18年 8月 1日号
今回の特集は
RNA研究分野の新展開
石井威望のコメント
ライフサイエンスのフロンティアは、もっぱらDNA分子に基づくゲノムの解析に絞られてきたが、DNAに基づく「生物学体系」いわゆるセントラルドグマだけでは、あまりにも単純すぎるという批判もあった。1990年代後半から、今回の執筆者などの提案によりRNAの重要性が浮き彫りにされてきた。
この新しいRNAワールドは、隠されていた大陸といわれているように、DNAからたんぱく質を作る遺伝情報の発現を調節し、直接に生理活性を発揮している。生命の起源としても、今やDNA以上の脚光を浴びている。今回の執筆者は、理化学研究所GSC遺伝子構造・機能研究グループの林崎良英プロジェクトディレクターである。
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ポイント
1. ライフサイエンスにおける可能性豊かな未踏の分野=RNA
近年のライフサイエンスの戦略方向の中で、遺伝子の見方の大幅な変更が余儀なくされてきた。その結果たとえばRNAをめぐっては、二重鎖RNAをベースとする新たな制御メカニズムが次々と明らかになり、研究の急速な進展や産業的な注目を反映した特許出願の急増がみられている。これは、いわば「RNA大陸」の新発見ともいうべき現象である。
2. マウスゲノムエンサイクロペディア計画で驚くべき解析結果
1995年、理化学研究所の林崎良英の提案になるマウスゲノムエンサイクロペディア計画が文部省のプロジェクトの一環としてスタートし、これによりcDNAシーケンスの全長配列決定がなされ、それを国際標準にするために国際FANTOMコンソーシアムも結成された。解析のためにはCAGE法、GSC/GIS法といった技術が開発されたが、そこで、ゲノムの70%以上が一度はRNAに転写されていること、さらに全RNAの半数がタンパク質をコードしないもの(ncRNA)であることが判明した。
ncRNAの機能にかんして存在が示唆されるS/ASには遺伝子発現制御機構があり、癌や薬剤代謝の分野に大きなインパクトを及ぼしうる。
3. RNAは今も独自に機能を発揮し続ける「隠されていた大陸」
ncRNAが転写の制御など重要な機能をもつ以上、生命の起源のRNAワールドは、DNAからタンパク質を作る遺伝情報の発現を調節し、時には、自分自身で生理活性を直接発揮する形で、いわば「隠されていた大陸」として脈々と我々の体の中において機能している。